研究領域
Research fields
【主な研究テーマ】
【基礎研究】間葉系細胞と微小環境による組織恒常性・再生現象の解明
近年、骨髄及び脂肪組織内に分布する間葉系幹細胞こそが組織再生の主体であると認識され一世を風靡しました。一方で私達は、幹細胞が分布すると考えられる組織と、生殖細胞(幹細胞)による病的な発生現象である奇形腫の発生部位との相違に注目し、組織幹細胞の万能性に疑問を抱いていました。そこで私達は、「非」幹細胞のパラクライン効果による再生促進作用を予想し、皮膚再生モデルを用いて、「非」幹細胞が有する臓器を越えた機能的可塑性による再生促進作用を証明しました。
(参考文献)
現在、組織恒常性及び癌の悪性度における微小環境の重要性が着目されています。微小環境は①細胞的微小環境(細胞間相互作用など)、②物理的微小環境(温度、圧力、流体刺激など)から構成され細胞の増殖、アポトーシスなどの恒常性や癌細胞の進展に影響しますが、細胞学的微小環境と物理的微小環境との関係は未解明でした。私達は細胞学的微小環境と物理的微小環境を簡便に再現する培養モデルを独自に開発し、それぞれの微小環境が、相乗的ないし独立的に正常細胞と癌細胞の細胞挙動を制御することを見出しました。特に、癌細胞の薬剤感受性対して微小環境は調節因子として影響を及ぼすことを解明しました。
(参考文献)
現在、当教室では様々な癌組織および正常組織の微小環境を再現する培養モデルを開発しています。この培養モデルは生体の恒常性の維持機構を解明するばかりでなく、「がん」に対する新たな治療戦略を構築する上で、重要なツールになると考えています。
【橋渡し研究】 コラーゲンを用いた新規医療技術の開発
当教室は千葉科学大学、竹澤俊明博士と共同で、竹澤博士が発明された高密度コラーゲン新素材「コラーゲンビトリゲル®」を用いた医療機器を開発しています。今までに、貼り付けるだけで傷をきれいに治すばんそうこう型人工皮膚、食道癌に対する広範囲内視鏡的粘膜下層剥離術後の高度狭窄を予防するパッチデバイスを開発してきました。さらに、組織修復の線維化機序に着目し、腹膜透析に合併する腹膜線維症を抑制する糸状デバイスを開発してきました。最近では、子宮頸部の円錐切除術の術後に生じる子宮頸管の狭窄と短縮を予防する新たなコラーゲン複合デバイスの開発に成功しました。 現在、複数の診療科とも連携し、アンメット・メディカルニーズに対応する革新的医療機器を開発中です。
(参考文献)
【次世代科学研究】 細胞機能を人為的に制御可能とする細胞培養法の開発
現在の移植医療において、ドナーは慢性的に不足しており、今後も解消する目処は立っていません。その解決方法として、臓器機能を代替する人工臓器が注目されています。現在、基礎研究においてOrgan-on-a-Chipが汎用されていますが、サイズと人工臓器としての工業化を考慮した場合に、プラスチック系素材の力学的脆弱性から、高い充填効率、耐久性、安定性を十分に満足させることが困難です。セラミックスは近年注目されつつあるバイオマテリアルであり、耐久性に優れ耐熱性も高いものの、素材が大型(厚手)であり、現在その用途は人工骨などに限定されています。私達は膜厚50 µmのセラミックス超薄膜に注目し、①薄さ、②高い力学的強度に着目しました。このセラミックス超薄膜を利用して細胞シートを高密度に積層し、2次元培養条件で実際の臓器機能を代償可能な培養臓器の実現化可能かどうか、基礎的研究を実施しました。その結果、セラミックス超薄膜専用培養装置を独自に作製し、上皮系細胞(重層扁平上皮細胞、子宮内膜細胞、肝細胞)、間葉系細胞(線維芽細胞、血管内皮細胞)、癌細胞(扁平上皮癌、悪性黒色腫)を共培養し、それぞれの細胞が培養可能であり、複数の細胞種を装置内で同時に積層培養することが可能である事を見出しました。さらに、セラミックス超薄膜を用いた培養では、通常の免疫染色法の利用が可能であり、細胞の増殖能や蛋白質の発現などの解析が可能であることを確認しました。今後は、培養スケールの大型化と高機能化を目指して研究を進めていく予定です。 (本研究は競輪補助事業の支援により実施しました)。
(参考リンク)